これまでピロリ菌の基礎知識、検査・診断と書いてきましたが今回は治療についてお話していこうと思います。
目次
・ピロリ菌って除菌した方がいいの??
・除菌治療が必要な人はどんな人??
・ピロリ菌はどうやって除菌するの??
・除菌治療の副作用は??
・抗生剤(ペニシリン)アレルギーがある方はどうする?
・高齢者、胃癌術後の患者様、妊婦さんなどの除菌治療はどうする?
・小児のピロリ菌感染はどうする?
ピロリ菌って除菌した方がいいの??
A.一般的には除菌した方がよいと思われます。
メリットとしては、慢性胃炎が改善し、萎縮の進行が抑制できること、消化性潰瘍再発が抑制できること、胃癌の発生を抑制できる(約1/3に減少する)ことなどがあげられます。
除菌治療が必要な人はどんな人??
ピロリ菌について① 〜基礎知識編 その2〜 でも少し触れましたが、「H,pylori感染の診断と治療のガイドライン 2016改訂版」にH,pylori除菌が強く勧められる疾患が記載されております。
羅列すると、H,pylori感染胃炎、胃潰瘍・十二指腸潰瘍、早期胃癌に対する内視鏡治療後胃、胃MALTリンパ腫、ITP(特発性血小板減少性紫斑病)、胃過形成性ポリープ、機能性ディスペプシア、胃食道逆流症、鉄欠乏性貧血です。
ただし、実際に保険診療で除菌できる疾患としては、H,pylori感染胃炎(内視鏡検査で診断)、胃潰瘍・十二指腸潰瘍(内視鏡または造影検査で診断)、早期胃癌に対する内視鏡治療後胃、胃MALTリンパ腫、ITP(特発性血小板減少性紫斑病)、のみです。これら以外、例えば鉄欠乏性貧血などは不可能なので、自費診療となります。
ピロリ菌はどうやって除菌するの??
A.薬を1週間飲むだけです。
薬は2種類の抗菌薬と、1種類の胃酸分泌抑制薬の3剤を内服していただきます。
ピロリ菌はすでにお話したように細菌なので抗生剤が必要です。ではなぜ胃酸分泌抑制薬が必要になるのでしょうか?
抗菌薬(特にAMPC)の効果を十分に発揮させるには、胃酸を抑制してピロリ菌を中性環境に置く事が必要だからです。また胃内を中性化することで、抗菌薬の胃内での安定性が高まります。これらの理由から胃酸分泌抑制薬は除菌治療に必須であり、効果の程度は除菌率に影響します。
初回除菌治療(一次除菌)
旧来のPPIであるランソプラゾール30mg、オメプラゾール20mg、ラベプラゾール10mg、エソメプラゾール20mgの4種類に加えて、2015年からP-CABであるボノプラザンの5種類から1種類を選択し、アモキシシリン1回量750mg、クラリスロマイシン1回量200mg or 400mgを併用した1日2回(朝夕食後)7日間投与を行います。
クラリスロマイシンの副作用は200mgより400mgで有意に高率であり、また除菌率に差異はないので200mgを選択するべきとされています。
またボノプラザンの方が旧来のPPIよりも除菌率が高いともいわれており、胃酸分泌抑制薬の中でも重要な薬剤になっています。
いずれにしても、除菌成功率も90%を超えています。
二次除菌
一次除菌に失敗した場合は二次除菌を行います。
一次除菌失敗の原因としては薬剤耐性が最も大きいとされています。特にクラリスロマイシン耐性菌感染例で、除菌率が著明に低下し、除菌不成功例ではクラリスロマイシン耐性獲得が容易に生じる報告されています。
過去にクラリスロマイシン系薬剤の長期使用があった場合には、ピロリ菌が薬剤耐性を獲得している可能性が高いとされています。最近数年で急激にクラリスロマイシン耐性菌が増加していることが考えられます。
その他には服薬アドヒアランスの低下、薬物代謝酵素の遺伝子多型などが報告されています。
いずれにしても、二次除菌では抗菌薬をクラリスロマイシンからメトロニダゾールに変更します。これで成功率は90%前後とされています。
一次除菌、二次除菌を行うことでほとんどの症例はピロリ菌を除菌できます。
ちなみに、保険診療上、二次除菌のレジメンを一次除菌に使用できません。
除菌治療の副作用は??
A .下痢・軟便、味覚異常、舌炎、口内炎、皮疹などがある。軽微で一過性のものが多い。
一次治療に伴う副作用は14.8%〜66.4%と報告されています。
もっとも多いものが下痢・軟便で10〜30%、次に味覚障害、舌炎、口内炎が5〜15%、皮疹が5%程度とされています。
副作用が軽微な場合には内服終了後に自然に軽快することが多いため、可能な限り除菌治療を継続します。
ただし、強い副作用(腹痛を伴う下痢、発熱、発疹、喉頭浮腫、出血性腸炎)も2〜5%程度発症します。この場合は、直ちに薬の服薬を中止して、主治医の診察が必要になります。
二次除菌として、特記すべきは、メトロニダゾールという抗生剤の副作用です。
メトロニダゾールは飲酒による反応が起き、腹痛、嘔吐、ほてり等が出現することがあるので、治療中は飲酒を避ける必要があります。またメトロニダゾールはワーファリンの作用も増強するため注意が必要です。
あと除菌後に食欲が亢進したり、体重増加が見られるとの報告があります。
除菌治療後に一時的に逆流性食道炎、GERD症状の出現または増悪が見られることがありますが、多くは軽症であり、治療が必要となる症例は少数です。
現在の考え方としては、除菌療法の妨げにならないとされています。
抗生剤(ペニシリン)アレルギーがある方はどうする?
A. 除菌治療前にわかっている場合は慎重に対応する必要があります。除菌しないで経過観察することもあります。
副作用としての薬疹は治療の2〜3%程度に認められます。その原因薬剤として最も高頻度なものはペニシリンです。
薬疹の出現時期は内服開始から数えて7日目〜9日目に生じるものが多いようです。ただし内服開始をすぐに生じる場合もあります。
薬疹が生じたと思われる時には、無理して内服継続せずに受診していただき、症状に応じた治療(抗ヒスタミン薬、ステロイド)を行います。
一次除菌で薬疹を生じても、除菌は成功している場合が多いですが、不成功の場合は薬剤アレルギーの説明や、アレルギー検査の説明をさせていただきます。
除菌せずに経過観察を行う方法もあります。
除菌を強く希望される場合には、なるべく※DLSTなどの検査をおすすめします。
ペニシリンアレルギーがあらかじめわかっている患者様には慎重に対応し、除菌はしないで経過観察する場合もあります。
※DLST(drug induced lymphocyte stimulation test):薬剤誘発リンパ球刺激試験といいますが、これは患者様の血液と薬剤を反応させる検査で、患者様には負担の少ない検査です。ただし、陽性率が必ずしも高くない一方で、偽陽性を生じてしまうこともあり、確実と言える方法ではありません。ちなみに、DLSTは薬疹の被疑薬で調べた場合は保険適用ですが、投与する可能性がある薬に関しては健康保険では検査できません。
高齢者、胃癌術後の患者様、妊婦さんなどの除菌治療はどうする?
高齢者であっても、内視鏡所見や自覚症状の改善が認められます。ただ高齢者に対する治療は確立されておらず、患者様の状態や、背景などを考慮した個別の対応が必要になります。
高齢者つまり、感染期間が長期間であればピロリ菌感染に伴う萎縮性変化はより進行します。ピロリ除菌後も定期的に経過観察することが重要です。
また高齢者の場合は、腎機能障害や肝機能障害の有無に配慮した慎重な治療が必要です。
ピロリ菌除菌をしていない術後胃粘膜にはピロリ菌感染は高率に認められます。
残胃においても、ピロリ菌陽性胃潰瘍や慢性胃炎はピロリ菌感染の適応です。
治療方法は全胃の方と同様です。
胃全摘術をされている方は、当然胃がないので、治療の適応はありません。
妊婦または妊娠している可能性がある婦人には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断された場合にのみ、除菌治療をすることが推奨されています。ピロリ除菌治療を妊娠中に行う必然性は低いです。
授乳中の婦人にはピロリ菌除菌治療薬の投与を避けることが望ましいとされています。(PPIは母乳へ移行が起こるため、授乳を避ける必要があります)
小児のピロリ菌感染はどうする?
ピロリ菌感染の多くは小児器、特に乳幼児期に感染します。日本の健常小児のピロリ菌感染率は約2%程度に低下しています。ピロリ菌に感染している小児のほとんどは無症状です。
除菌の適応疾患に関しては「小児期ヘリコバクターピロリ感染症の診断、治療、および管理指針」(以下、「小児指針」)が参考になります。
「小児指針」は15歳以下を規定して作成されています。
ピロリ菌陽性の胃潰瘍・十二指腸潰瘍は除菌治療が第一選択となります。
鉄欠乏性貧血、特に再発を繰り返す場合や鉄補充療法に抵抗する場合は、ピロリ菌が陽性であれば除菌を行います。また小児の慢性特発性血小板減少性紫斑病(ITP)も除菌治療が選択肢にあがります。
胃癌予防に対する小児期ピロリ菌の考え方ですが、無症状の小児に対するピロリ菌検査と陽性者の除菌(test and treat)は推奨していません。理由としては小児のピロリ菌による胃癌の報告はないこと、ピロリ菌感染は小児期のアレルギー疾患の発症の抑制する可能性があることなどが上げられます。
実際の除菌治療についてですが、そもそも「小児に対する安全性は確立していない」とされています。除菌後の再感染のことも鑑みて、「小児指針」では除菌対象を原則として5歳以上としています。
その上で、使用する薬剤の用量は成人量を最大として、体重に応じて決定します。
日本では小児の一次除菌の除菌率が低く(70%程度)、主因はクラリスロマイシン耐性とされています。
除菌によるメリットがデメリットを上回ると考えられた時に治療は行うべきだと考えられます。
次でピロリ菌に関しては最後のコラムになる予定です。
文責 副院長 下河辺嗣人(消化器病専門医、消化器内視鏡学会専門医)
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