前回まではピロリ菌の一般的な話、今回はピロリ菌感染に関わる「検査」に関して少しお話していこうかと思います。
目次
●ピロリ菌感染検査はどのような時に行うのか?
●ピロリ菌感染を確認するにはどういった方法があるの??
ピロリ菌感染検査はどのような時に行うのか?
一般的にピロリ菌に感染しても、症状が出現することは稀です。ではどのようなタイミングでピロリ菌感染の有無をチェックするのでしょうか。
多くの方では胃癌検診(胃バリウム検査や内視鏡検査)などで、慢性胃炎や萎縮性胃炎と指摘されて、その後に検査される方が多いのではないでしょうか。
またはABC検診(胃癌リスク検査)などで陽性の指摘もあると思います。
※ABC検診は胃癌検診とは異なります。
いずれの時期でも異常の指摘があった場合は、一度はピロリ菌感染の確認をされることをお勧めします。かかりつけの先生とご相談下さい。
子供の頃に検査をしておくか否かに関しては議論が分かれるところです。
年少児では、再感染の可能性があること、検査の感度が低いことから検査を行うことはあまり推奨されていません。一般的には、中学校以降では再感染の可能性も下がり、検査感度も成人と同等であるため、スクリーニング検査をしてもよいかもしれません。
ちなみに中・高校生でピロリ菌に感染しているのは約5%程度といわれています。
ピロリ菌感染を確認するにはどういった方法があるの??
A. いくつかの検査方法があります。それぞれのメリット・デメリットがあります。
まず原則として保険診療で検査を受ける方を対象としてお話をします。
“内視鏡または胃造影検査において胃潰瘍または十二指腸潰瘍の確定診断がなされた患者”、“胃MALTリンパ腫”、“特発性血小板減少性紫斑病”、“早期胃癌に対する内視鏡治療後の患者”、“内視鏡検査において胃炎の確定診断がなされた患者でピロリ菌感染が疑われる場合”に限り感染診断を行うこととなっています。
一番多いパターンでは「内視鏡検査において胃炎の確定診断がなされた患者でピロリ菌感染が疑われる場合」となります。
つまり、検査を行うにはまずは内視鏡検査を行う必要があります。内視鏡検査の時期に関しては診断・治療前の6ヶ月以内(他の施設でも可)とされていますので注意して下さい。
まず現感染ピロリ菌感染があるかを確認する「ピロリ感染診断」と、ピロリ菌除菌治療を行ったあとに行う「ピロリ除菌判定」の2つに分かれます。
その診断には、大きく⑴内視鏡を使って、生検し、その組織を用いる侵襲的検査法と⑵内視鏡を用いない非侵襲的検査に分かれます。
⑴内視鏡により採取した生検組織を用いる侵襲的検査法
ⅰ:迅速ウレアーゼ試験
ⅱ:組織検鏡法
ⅲ:培養法
の3つがあります。
⑵内視鏡を用いない非侵襲的検査法
ⅳ:尿素呼気試験(urea breath test; UBT)
ⅴ:抗ピロリ抗体(血清、尿を用いる)
ⅵ:便中ピロリ抗原検査
の3つがあります。
「ピロリ菌感染診断」には、ⅰ〜ⅵのうち1項目のみを行い、これが陰性であればそれ以外の1項目を追加する方法があります。またⅰ+ⅱ、ⅳ+ⅴ、ⅳ+ⅵ、ⅴ+ⅵのいずれかを組み合わせる方法があります。
「ピロリ菌除菌判定」にはⅰ〜ⅵのうち1項目のみを行い、これが陰性であればそれ以外の1項目を追加する方法、またはⅳ+ⅴ、ⅳ+ⅵ、ⅴ+ⅵのいずれかを組み合わせる方法があります。
ちなみに当院では、患者様によって使い分けを行いますが、「ピロリ菌感染診断」には、まずはⅴ(採血させていただき、血清抗ピロリ抗体を調べる方法)を行い、陰性であれば他項目を追加する方法を採用しております。
「ピロリ菌除菌判定」にはⅳ(尿素呼気試験)を行っています。
1)偽陰性:感染しているため本当は検査陽性となるべき人が感染していない(陰性)と判定されること。
それぞれの検査を簡単に紹介していきます。
⑴内視鏡により採取した生検組織を用いる侵襲的検査法
ⅰ:迅速ウレアーゼ試験(RUT)
以前の記事にも書きましたが、ピロリ菌は高いウレアーゼ活性により胃液中の尿素を分解して、アンモニアと二酸化炭素を産生します。RUTはこの作用を利用しており、キットには尿素とアンモニアに反応するpH指示薬が含まれています。採取した生検組織にピロリ菌がいれば、アンモニアが産生されてpHの上昇に伴い指示薬の色が変わりピロリ菌感染が確認される仕組みです。小学校などで行ったリトマス試験紙などと同じ仕組みですね。
利点としては、名前の通り迅速性に優れており、キットによって異なりますが大体1〜2時間で結果がでます。
欠点はPPIや防御因子製剤の内服で偽陰性になることがあります。またcoccid formでは偽陰性になることがあります。
除菌後の判定に使用することは勧められていません。
ⅱ:組織鏡検法
内視鏡検査にて生検された組織からホルマリン固定組織標本を作成し、顕微鏡観察することによってピロリ菌を直接確認する方法です。
利点は結果(組織標本)を保存することができること。ピロリ菌の存在診断だけでなく、炎症、萎縮、腸上皮化生などの程度の評価もできることが上げられます。欠点は検査医の熟練が必要で、他のらせん菌との鑑別が難しいことがあります。
某検査会社の資料によると、ピロリ菌関連検査依頼の1%未満にすぎないと言われており、実際にピロリ菌感染の有無には使用されていないのではないでしょうか。
ⅲ:培養法
生検組織から選択培地に接種し、培養させ、性状を確認して判定する方法です。
利点は菌株が得られるので、薬剤感受性などを調べることができます。
問題点は判定までに時間がかかる(5〜7日間)こと、PPIや防御因子製剤の内服で偽陰性になることがあります。
この検査法もピロリ菌関連検査依頼の約2%とほとんど使用されていません。
⑵内視鏡を用いない非侵襲的検査法
ⅳ:尿素呼気試験(urea breath test; UBT)
RUTと同様にピロリ菌のウレアーゼ活性を利用した、体外検査法です。13Cで標識した尿素を服用して、胃内にピロリ菌が存在すれば13Cで標識された二酸化炭素が発生し、呼気中に排出されます。呼気中の標識された二酸化炭素濃度が上昇していればピロリ菌に感染していると診断できます。
この検査は非侵襲的、簡便で感度・特異度ともに高く、信頼度の高い検査法として評価されています。
欠点はやはり、PPIや防御因子製剤の内服で偽陰性になることです。
ピロリ菌関連検査依頼の約23%を占めています。
当院では主に、「ピロリ菌除菌判定」に使用しています。
【尿素呼気試験の流れ】
ⅴ:抗体測定法
ピロリ菌感染により胃粘膜局所に免疫反応が惹起されて抗体が産生される。この抗体を測定することで、間接的に感染の有無を診断する方法です。
通常は主に血清と尿を用いて行います。
利点は最も簡便に行える検査です。PPIや防御因子製剤の影響を受けないために、休薬の必要がいらないのも便利です。
問題点としてはピロリ菌感染直後や免疫異常がある場合は偽陰性になること。
また、抗体は除菌が成功していても一定期間持続するため除菌判定には不適です。(除菌判定に用いる時は、除菌前と除菌後6ヶ月以上経過時での定量的な被比較を行い、抗体価が前値の半分以下に低下した場合には除菌成功と判断してもよいとなっています。)
ピロリ菌関連検査依頼の約67%を占めています。
当院では主に、「ピロリ菌感染診断」に使用しています。
現状では、カットオフ値は10U/mlを用いており、10U/mlが陽性判定、10U/ml未満が陰性判定となっています。しかし、学会報告などにより、抗体価3.0〜9.9U/mlを示す陰性の中でも、一部の症例で陰性高値といわれるピロリ現感染(現在も持続感染している、既感染(除菌後や自然除菌後))が混在することが判明しています。
そのため当院では3.0〜9.9U/mlの患者様には他の検査を併用して、現感染がないかを確認しております。
ⅵ:便中H.pylori抗原測定法
胃から消化管を経由して排泄されるピロリ菌由来の抗原を検出するもので、抗体測定とは異なり、直接的に抗原を検出する方法です。
専用の採便キットに便を採取すれば1週間程度は常温以下(可能であれば低温で)で保存可能とされているので、クリニックなどでも検査可能です。
RUTでは陰性となるcoccid formでも検出可能です。胃切除後における診断精度が優れていることも利点です。さらにPPIの影響を受けにくいことも報告されています。
水様便では便中抗原が希釈され偽陰性になることがあるのがデメリットです。
ピロリ菌関連検査依頼の約7%を占めています。
⑴内視鏡により採取した生検組織を用いる侵襲的検査法は、生検した組織にたまたまピロリ菌がいなければ結果が陰性となり、「点の診断」のイメージとなります。
一方で、⑵内視鏡を用いない非侵襲的検査法は、「面の診断」のイメージとなります。
検査方法は6つありますが、適切な方法を用いて正しい診断を行いましょう。
まとめ
ピロリ菌感染検査は、胃癌検診などで、慢性胃炎や萎縮性胃炎と指摘されて、その後に検査される方が多いです。検査を行うにはまずは内視鏡検査を行う必要があります。検査方法は多くありますが、適切な方法を用いて正しい診断を行いましょう。
文責 副院長 下河辺嗣人(消化器病専門医、消化器内視鏡学会専門医)
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