コラム 胃がん① 〜総論から検診について〜
胃がんは、生活習慣の変化と検診などの医療の進歩などによって、世界的に罹患率、死亡率ともに年々低下経傾向にあります。とはいっても日本では、胃がんは罹患率(その病気にかかった人がどのくらいいるか)、死亡率(その病気が原因で死亡した人がどのくらいいるか)ともに上位に入っており、一般外来をしていてもよく出会う病気の一つです。今回からは胃がんについて色々とお話していこうと思います。
目次
・胃がんの原因は?
・胃がんは日本に多い?
・どうやって胃がんを早く見つける?
・どの検診は受ければいいのでしょうか?
胃がんの原因は?
胃がんは、環境、遺伝など様々な因子が重なって発症するので、これといってひとくちには言えません。しかし、最近の研究ではヘリコバクターピロリ菌感染が胃がん発症の大きな原因になっていることがわかってきました。ピロリ菌に感染すると時間をかけて慢性胃炎(萎縮性胃炎)を引き起こし、慢性胃炎から胃がんが発生するとされています。
ピロリ菌は多くは幼少期に感染するとされ、残念ながらワクチンなどの予防法はありません。(近年、ピロリ菌の除菌治療はさかんに行われるようになっています。)
食生活で胃がんの発生や予防ではっきりと証明されているものはありませんが、塩分摂取過多は胃がん発生の危険を高めることはほぼ間違いないようです。
胃がんは日本に多い病気ですか?
世界的にみると東アジアに多いがんです。日本では年々死亡率は低下していますが、そうはいっても未だに罹患率は1位、死亡率でも2位と侮れません。
少し詳しく説明していきます。
まず世界でみてみると、罹患率において男性は4位、女性は6位です。世界でも地域が偏っていて、東アジアに多い疾患です。罹患率、死亡率ともに日本、韓国、中国、ロシアなどで男性・女性ともに高いとされています。逆にアメリアやヨーロッパ、アフリカなどは少ないです。
さて日本では癌種別にみても、男性では罹患率はまだ1位です。しかし、女性では3位(1位大腸癌、2位乳がん)と減ってきています。
とはいっても、日本では13万人の方が胃がんに罹患しています。
次に死亡率ですが、男性・女性ともに減ってきています。男性では肺癌に続いて2位(むしろ3位の大腸癌がどんどん増えています)、女性では3位(1位大腸癌、2位肺がん)で、年間約4万5000人ほどが胃がんで亡くなっています。
罹患率と死亡率が異なるのは、早期で見つかれば内視鏡や手術で取れることができるためだと思われます。
世界各国において、日本は5年生存率(胃癌と診断された方が5年後に生存している割合)が約60%程度、と他国(20%程度)と比較して高いです。
これは診断された時のステージ(癌の進行度の程度)が早いためです。
つまり胃癌では早期発見が大切ということがわかります。
では次にどうやったら胃がんを早期発見できるのかをお話しましょう。
どうやったら胃がんを早く見つける?
胃癌の症状って何を思い浮かべますでしょうか?
実は、胃がん特有の症状はありません。特に早期胃癌の多くは無症状です。また検診で見つかった進行胃癌の約半分は無症状とされています。もちろん胃癌が進行してくると胃痛、嘔気・嘔吐、腹部膨満、吐血、黒色便、貧血、食欲低下、大樹減少など様々な症状がでます。逆にいうと、症状が出るころにはすでにがんは進行していることが多いということです。
早期に発見するためには“無症状の時にどんな検査を受けておくべきか”を知っておく必要があります。それは、日本が取り組んでいる「検診」です。
つまり、胃癌の早期発見には「検診」が大切ということです。
ただ悲しいことに、全国的にみて胃癌検診の受診率は低いです。40歳以上の胃癌検診率は約10%(目標値50%)だけです。さらに当院がある奈良に限っていうと約6%とさらに低い数字です。もっと我々が努力し、世間一般にアピールしていく必要があるところです。
ではどの検診は受ければいいのでしょうか?
胃癌の検診には大きく、①胃透視検査(バリウム)②胃内視鏡検査(胃カメラ)③採血検査(ABC法)があります。
以前は主に胃透視検査が行われてきましたが、近年になって胃内視鏡検査も行われるようになってきました。それぞれの検査について説明していきます。
①胃透視検査(バリウム)による検診
がん検診指針:40歳以上の者を対象に年1回
この検査は胃癌による死亡率減少効果を示す相応な証拠があります。
硫酸バリウムという造影剤と発泡剤(胃の中でガスを発生する)を飲んで、胃の外側からレントゲンを取る検査のことです。
検査時間は15〜30分程度で、長所は胃全体の形や動きの観察ができ、比較的安全とされています。短所は凹凸の少ない病変や小さな病変を見つけるのは困難なこと、バリウムを飲むのが苦しかったり、検査後便秘になったりすることもあげられます。胃透視検査で胃癌が疑われた場合は、内視鏡検査が必要となります。
②胃内視鏡検診(胃カメラ)
こちらも胃癌による死亡率減少効果を示す相応な証拠があります。
内視鏡検査は、口から約1cm程度の太さの内視鏡(カメラ)を挿入して胃内を直接観察する検査です。検査時間は約10分程度です。長所は胃粘膜を直接観察するので色の変化や小さな病変の診断が可能です。また胃癌の組織を採取(生検と呼びます)することで病理学的に確定診断を得ることができます。
短所としては非常にまれではありますが、偶発症(出血、穿孔)が起こる可能性があること、鎮静剤などの前処置を行わないと苦しいことがあります。
内視鏡検査には内視鏡を鼻から挿入する「径鼻内視鏡」と、口から挿入する「経口内視鏡」があります。検診ではいずれの方法でも検査可能です。
③採血検査(ABC法)
ABC検診と言われており、ピロリ菌感染の有無(血清ピロリ菌IgG抗体)と胃粘膜萎縮の程度(血清ペプシノーゲン値)を測定し、被験者の胃癌リスク評価をA〜Dの4段階で判定します。
注意としては、ABC検診は癌そのものを見つける検査ではなく、胃癌になる可能性が極めて低い人(ピロリ菌感染がなく、胃粘膜が健康な人たち)を精密検査の対象から除外し、ピロリ菌感染(現感染、既感染)して胃粘膜に萎縮のある人たちには胃癌の存在を確かめる精密検査を受けていただくものです。
がん検診学会が推奨する検査
|
死亡率減少効果 |
住民検診 |
人間ドック |
胃X線検査(バリウム) |
◯ 証拠あり |
◯ 推奨する |
◯ 推奨する |
胃内視鏡検査(胃カメラ) |
◯ 証拠あり |
◯ 推奨する |
◯ 推奨する |
血液検査(ABC法) |
△ 証拠不十分 |
× 推奨しない |
△ 効果不明で個人で検討 |
以上から検診(バリウムもしくは胃カメラ)を定期的に受けましょう。
いずれの検査を行うかに関してはかかりつけ医などに相談するのがよいのではないでしょうか。
今回のコラムでは胃がんの総論的なお話と、まずはどうやったら胃がんを早期に発見できるかをお話しました。
次回は胃カメラについての説明と、「胃がんになってしまった。胃がんと言われた。」時にどういった検査を行い、医師が何を考えているかとお話させていただこうと思っています。
まとめ
文責:副院長 下河辺嗣人(消化器病専門医、消化器内視鏡学会専門医)
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