今回からは、胃カメラを行った時によく出会う病気、疾患に関して説明していこうと思います。当院では胃カメラの結果は説明の時に印刷してお渡ししていますので所見を見直していただけると興味が出てくるかもしれません。
はじめは逆流性性食道炎からいきます。
目次
・逆流性食道炎とは?
・逆流性食道炎の頻度は?
・逆流性食道炎の症状は?
・逆流性食道炎の原因は?
・逆流性食道炎はどのように診断する?
・逆流性食道炎の治療は?
・逆流性食道炎と食道がんの関係は?
逆流性食道炎とは?
逆流性食道炎とは、強酸性の胃液や胃で消化される途中の食べ物が、食道に逆流することで食道に炎症を起こし、胸焼けや胸の痛みなど様々な症状が生じる病気です。逆流性食道炎はもともと日本人に少ない病気と言われていましたが、食生活の欧米化、ピロリ菌感染率の低下などによって、最近は増えてきています。
逆流性食道炎の頻度は?
1000例以上を対象とした研究で逆流性食道炎の頻度は約10%程度とされています。胸焼け症状がある場合はその約2倍程度です。
さらに日本人の逆流性食道炎の頻度は増えてきています。
逆流性食道炎の症状は?
逆流性食道炎の症状は一つではなく、非常に多彩です。無症状の人から強い症状の方まで様々です。多いのは、胸焼け、呑酸があります。
呑酸とは喉の辺りや口の中が酸っぱい、胃の中身が逆流する感じがする症状のことを言います。その他にはお腹の張り、喉の違和感(イガイガ感、ヒリヒリ感)、胃もたれ、頻繁にげっぷが出る、胃の痛みなどがあります。
頻度は減りますが、長期間持続する咳症状もあります。
逆流性食道炎の原因は?
食道は、口から食べた物を胃に送る筒状の臓器で、通常は一方通行になっています。食道と胃の間は下部食道括約筋という筋肉によって、通常は閉じていますが、食事が通るタイミングで開いて食べ物を胃に送るようになっています。
胃では胃酸と食べ物を消化するための消化酵素を含む胃液が分泌されています。胃液によって、食物に含まれるタンパク質を分解して、柔らかくしてその先の小腸で吸収しやすい状態にしています。何らかの原因で胃酸が食道に逆流すると食道粘膜は炎症を起こします。この逆流が繰り返し起こると食道の粘膜にただれや潰瘍が生じて胸焼けや呑酸などの不快な症状が起こります。
原因はストレスや食べ過ぎ、過度のアルコール摂取、喫煙、肥満による胃の圧迫、猫背・加齢による亀背、就寝時に枕が低い、食道裂孔ヘルニア(胃の一部が食道の下部に飛び出す)などがあるとされています。
逆にヘリコバクターピロリ菌感染があると逆流性食道炎の有病率は低いと言われています。
逆流性食道炎はどのように診断する?
診断法は大きく2つあって、症状と内視鏡検査です。
記入型アンケートといって、症状の程度を点数化する問診票のことで、初期診断には有用といわれています。日本ではFスケール(FSSG)を使用することが多いです。
自覚症状から逆流性食道炎を診断し、強力な酸分泌抑制剤(PPI)を投与してみて、胸焼け等の症状の消失の有無で治療的診断を行います。ただPPIの用量と投与期間は決まったものはなく、その評価は難しいところもありますが、簡便性から診断に有用と考えられています。問題的としては他の病気(胃潰瘍や胃がん、食道がん)であった場合でも一時的には症状は改善することがあるので診断が遅れてしまう場合があります。
胃内視鏡検査(胃カメラ)は出来れば、治療前に受けられることをお勧めします。胃カメラ検査では、実際に食道の粘膜にどれくらい傷がついているかどうかがわかります。また症状が逆流性食道炎によるものであることを確認し、さらに重症度を考慮した治療を行うことができます。
内視鏡的粘膜傷害の重症度とは?
胃内視鏡(胃カメラ)で見た炎症の程度により、グレードN、M、A、B、C、Dと6段階で評価されます。これをロサンゼルス(LA)分類といいます。僕の所見ではLA-MとかLA-Aとか記載されていると思います。
グレードN(正常)→M→A→B→C→Dの順に病気が進行します。グレードNは内視鏡的には炎症を認めないという意味で、逆流性食道炎ではなく、正確には「非びらん性胃食道逆流症」といいます。
頻度としてはグレードNが一番多く、逆流性食道炎の約60%を占めます。次に多いのがグレードMで約26%、順にグレードAが約7%、グレードBが約6%、グレードCは約0.7%、グレードDが約0.3%とされています。
内視鏡的粘膜傷害の重症度は自覚症状と相関するか?
内視鏡的粘膜傷害の重症度と自覚症状の重症度はある程度関係があるとの報告もありますが、その相関程度は低いとされています。
ですので、内視鏡的にひどい粘膜傷害があっても、症状がないこともよくありますし、胸焼け症状が強くても内視鏡的には粘膜傷害は軽度ということもあります。特に高齢者では症状が出にくいことが多いです。
逆流性食道炎の治療は?
どんな方に治療を行う必要があるでしょうか。先ほども記載しましたが、自覚症状があっても内視鏡的に炎症が起こっていない状態もあります。このような場合は症状があれば治療適応と考えます。逆に内視鏡的な所見はあっても自覚症状がない方もおられ、こういったケースでは内視鏡の炎症の程度が軽ければ治療せずに経過を見ることもあります。主治医もしくは内視鏡医と治療を行うかどうかは相談が必要です。
治療は大きく3つあります。⑴生活習慣の改善、⑵薬物療法、⑶外科的治療です。
⑴生活習慣としては、「肉や脂っこいものばかり好んで食べる」「満腹になるまで食べる」「食べてすぐに横になる」などの生活習慣が原因となります。つまり脂肪が多い食事は控える、食事は腹八分まで、食後は1〜2時間くらいは横にならないなどの対策を取りましょう。
また肥満や喫煙、飲酒、お腹をベルトで締めすぎる、お仕事で前屈みの姿勢をよくとる、なども逆流性食道炎の原因となるので、気をつけましょう。
⑵薬物治療はPPI(プロトンポンプ阻害薬)やH2ブロッカーなどの胃酸の過剰な分泌を抑えるお薬を用いることが基本となります。PPIの投与で80%前後の人で症状が改善すると報告されています。
⑶外科的治療は薬物療法でも効果のない症例には行うこともあるようです。ただ極めて珍しい例であり私自身は経験したことはありません。噴門部形成術を行います。
逆流性食道炎と食道がんの関係は?
逆流性食道炎の患者様から「食道がんと関係ありますか?」と聞かれることがしばしばあります。
結果から申し上げると、逆流性食道炎と食道がんの直接の関係は言われていません。
しかし、間接的には関係があるものがあります。逆流性食道炎で「バレット食道」という状態になると、そこから「バレット腺癌」という食道がんになるリスクがあるので少し注意が必要です。
今回は長くなったのでここまでにします。次回は最後に出てきた「バレット食道」などについてお話しようと思います。
まとめ
文責 副院長 下河辺嗣人(消化器病専門医、消化器内視鏡学会専門医)
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